地方物産展示会場。
多くの人が、人気の沖縄物産展で「食べるラー油」を物色する中、
僕は新潟県燕市の物産を見ていました。
「新潟県燕市の金属食器はいいよー。」
新潟県燕市は金属加工品の産地として有名です。
江戸時代、信濃川の度重なる氾濫に悩まされた農家たちが
副業として和釘・舟釘などの鍛冶を行ったことが始まりだといわれています。
「わしはこのコップが一番うまい、と思うんじゃよね。」
沖縄物産展の店員かと思っていたおじさんがニコニコと僕に話しかけてきました。
ゴツゴツとした手に銀色にピカピカと輝くタンブラーを持って。
「この2重構造になっているステンレスのコップなんかどう?」
僕は普段からサーモスの真空断熱ケータイマグを愛用しており、
金属の二層構造による断熱性の高さは大変魅力的でした。
「どうじゃこの曲線と光沢。美しいじゃろ。」
「こっちのコップは24金加工で殺菌効果があるんじゃ。」
「こっちのはチタン製だから軽いし、アレルギー反応も抑えられるんですよ。」
「この内側の磨きがすごいじゃろ。これできめ細かい泡ができてビールが旨くなる。」
「ではこのコップと、ガラスのコップでビールを飲み比べてみてみましょう。」
いつの間にか別のおじさんが1人増え、
僕の前にはガラスとチタンのコップが1つづつ置かれ、
それぞれビールが注がれていました。
「うまいじゃろ。」
「ビールの泡がなかなか消えないでしょう。」
「この内側磨くのは大変なんじゃよー。」
「タンブラーの曲線が泡立ちを良くしているんです。」
「でも、わしはこっちコップはこの溝に雑菌が繁殖するから買わん方がいいと思う。」
「きめ細かい泡がビールのエグ味を取ってくれるんですよ。。」
「わしはチタンはコップじゃなくて人工骨とかに使う方がいいと思う。」
「この縁の部分の角度が口当たりを良くするんですよ。」
「これ****円にしてもいいじゃろ?」
「いいですよ。」
「****円でもいいよー。」
「わしら儲けとか、どうでもいいんじゃよー。」
更に3人目のおじさんが現れ、いつの間にか囲まれていました。
海洋生物の描かれた絵画を法外な価格で買わされそうな勢いです。
そのうち、謎の値引きが開始されたと思ったら、
物産展の店員とは思えない発言も目立つようになってきました。
「水を張って金属を磨くんです。高熱で火花がでるから大変。」
「サーモスの真空タンブラー?あ、あれ、わしらの技術。」
「あっぷるがiPodの裏面磨いてくれって言ってきたとき電気ポットのことかと思ったんじゃよね。」
「iPodは1日1000個磨いたもんです。」
「三菱重工の飛行機の翼は一個一個手作業で磨くんだよー。」
……。
トイレにはそれはそれはキレイな女神様がいるといいますが、
物産展のおじさんたちの中にもあらゆる金属をピカピカに磨く神様がいることを
僕は今日初めて知りました。
「作って飲んでみたらこのタンブラーが一番旨かったからおすすめはこれ」
と言っていた、沖縄物産展の店員かと思っていたおじさんAこと、大原 實さんは、
昭和61年に金属研磨仕上げ単一等級を取得。
中央技能検定委員、
燕研磨工業会会長を歴任。
第1回にいがた県央マイスター(金属器物バフ研磨)。
大原研磨工場代表取締役。
ホテルなどで使用する金物食器の研磨を得意とする職人さんで
120cm以上の大皿を磨くことができる唯一の地球人でした。
「このタンブラーで飲んで一番うまくなるのは………アサヒスーパードライ!」
真っ昼間からビールを注いでくれ、こう断言したおじさんBこと、田中三男さんは
昭和61年に金属研磨仕上げ単一等級を取得。
中央能力開発審議会専門委員、
燕研磨工業会会長を歴任。
日本金属研磨仕上げ技能士会主催の第4回技能競技会奨励賞を受賞。
第1回にいがた県央マイスター(家電製品バフ研磨)。
田中研磨工業代表取締役。
燕研磨振興協同組合理事長。
あのiPodの裏側のピカピカの鏡面筐体研磨の技術を確立、標準化に尽力され
地域全体の受注を取りまとめた立役者でした。
彼らが磨きすぎたせいでiPhone4はガラス面になったといっても過言でありません。
「じゃあ****円にする?」
と、職人的商法を始めたおじさんCこと、古関鐡男さんは
燕研磨工業会会長、
日本金属研磨仕上げ技能士会会長、
磨き屋シンジケートチェアマンを歴任。
第1回にいがた県央マイスター(建築金物バフ研磨)。
古関研磨工業代表。
パイプの裏側の研磨や屈曲金物へ連続したヘアライン加工を施す技術を開発した方でした。
というか、
ここの磨き屋マイスタートリオ全員集合じゃないか!
磨き屋と呼ばれる彼ら職人達は、精密加工機器でも研磨不可能な25万分の1ミリという
想像を超えた単位で金属類を磨く事が可能と言われています。
世界一の技術を持つ親方達が普通の物産展会場の中を普通の店員として
店内をウロウロしていたのでした。
僕は、日本の雪国の小さな町工場の職人が世界一の技術を持っていることを誇りに思います。
商品であるマグカップ、タンブラーは
「注いだビールの泡のきめ細かさ」
「2層構造による保冷能力の高さ」
など、機能性の高さも勿論なのですが、
「燕市の研磨の美しさ」や
「純粋に国産のすばらしい技術にお金を払いたい」
と思っている人も数多くいるはずです。
技術の継承、国際的な価格競争、新規事業の開拓と、課題は決して少なくないと存じ上げますが、
世界に誇る日本の技術保全の為、陰ながら応援致します。
今後の益々の御発展をお祈り致します。
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